〜HOW TO USE IT〜 「L」とはどうやって誕生したのだろうか? 唐突な質問だとは思うが、疑問に思った事はないだろうか。 世紀の名探偵「L」。人前に決して姿を現さない幻の探偵。警察関係者にとってその名は事実上のトップであり、切り札だった。 彼に解けなければ迷宮入り。それが当たり前で、真実だった。 しかしその実、人前に姿を現さない事を口実に、陰では「安楽椅子探偵」や「猟奇趣味の変態探偵」などと呼ばれることもあったようだが。 だが、一つ目のファイルに当たる「ロサンゼルスBB連続殺人事件」にも記したように、彼は決して安楽椅子に納まって事件を見届けるような人物ではなかった。 むしろ積極的に事件現場や関係者の所へ出かけていき、思いっきり怪しまれながら事件の調査をしなくては我慢が出来ないような男だった。 そんな彼も、負けるときは負けるのだ。 このファイルが人の手に渡るとき、僕はもう死んでいるだろう。 その時世界がどうなっているかなんて事に興味は無いが、僕が勝っても、あの頭でっかちのニアが勝っても(そんな事は考えたくもないが)、あるいはあの大量殺人犯キラが勝ったにせよ、Lという探偵が存在したという記録は残るべきであろう。 だから僕は、ここにその名探偵について、知る限りを書き残し(それはほんの一部に過ぎないのだろうけど)、後の世に伝えてからあの世に逝きたいと思う。 残念ながら、かの名探偵自身の口から真実を聞き出す機会は永遠に失われてしまったが、僕や、僕と同じようにワイミーズで時を過ごし、Lの偉業を耳にした者たちが少しずつカケラを残していけば、 偉大な名探偵の短く、壮大な一生の半分くらいは覗き見ることが出来るのではないだろうか。 勿論、僕がその全てを目にする事はおそらく不可能だろうから、その夢は後世にでも託すとして、とにかく今は目先のこのファイルを埋めてしまおうと思う。 このファイルに僕が記すのは「ウィンチェスター爆弾魔事件」だ。 最初の問い、「Lの誕生」についての答えは、おそらくここに書き残す事が出来ると思う。 「ロサンゼルスBB連続殺人事件」「欧州バイオテロ事件」に続く、僕の三つ目のファイルであり、僕がLについて書き残せる最後の事件であろう。 今後僕がLについて見聞きする事はおそらく無いであろうし、仮にあったとしても、それは酷く信憑性に欠けると思われるからだ。 「ロサンゼルスBB連続殺人事件」を書き残すために筆を取った時は、あの白髪頭のニアか、狂った殺人鬼のキラがこの三つのファイルを手にするであろうと考えていたが、 二つ書き終えてみると、そんな連中以外にも、広くこの記録を目にして欲しいという気持ちも無い事もない。 ワイミーズでの論文くらいしか書いたことのない僕が、一応とはいえ長々と事件の話を小説のように書き連ねたのだから、その努力くらいは評価して欲しいところだ。 ウィンチェスター郊外で起こった連続爆破事件。それは僕からすれば危険な爆弾魔の起こした大事件、というよりも、世紀の名探偵Lの初舞台とでも呼ぶべきものだ。 様々な記録から、当時Lは推定八歳。そんな幼い少年がいかにして爆弾魔の正体を突き止め、逮捕するまでに至ったのだろうか。 僕がLにこの話を聞かされたのは十一歳くらいの頃。当時の僕にはLがその事件を解く様子が目に浮かぶようで、とても楽しかった。 今その話を思い返してみれば、当時のLはよくもまぁ、そんな大それた事をやってのけたもんだ、という呆れと驚きの入り混じった複雑な心境になったりするのだが。 さて、前フリとしては長く、少し無駄な文章だったかもしれないが、そろそろ始めるべきだろうか。 事件の始まりから話を始めるのも悪くないとは思うが、何度も言ったように、僕にとって重要なのはあくまでLであり、事件の内容や容疑者の心理など、知る術もないし、そんなものに興味も無いというのが本音だ。 だから、そんなどうでもいい描写はすっ飛ばして、どうしても語らなければならない、その始まりの時へ時計の針を戻すとしよう。 ―――ああ、そういえば忘れていた。既に二つのファイルを書き終えていたからもう必要ないような気がしていたが、 誰がどのファイルから読み始めるかが分からない以上、僕はこの序文の最後に、ナレーター兼ナビゲーター、ストーリーテラーとしての署名を残しておかなくてはならないのだった。 (もっとも、多くの人間は僕の名前など聞いたこともないだろうが) 僕は旧世界のかませ犬、犬死のベストドレッサー、ミハエル・ケール。この名前よりも、メロという名の方が、まだ知っている人間はいるかもしれない。だがそれはおそらく、大昔の事であろう―――。