■幸せを求めて 突然だけど、あなたは幸福って何だと思う? お腹いっぱい食べること? 好きなだけ寝ること? 金持ちになること? 友達と楽しく過ごすこと? 夢をかなえること? ……どれか一つ、これだ、っていう幸せを決められるかしら? 私なら無理ね。 だってそうでしょう? 空腹のときは、お腹いっぱいの食事が何よりも幸せだけど、お腹が減ってない時に豪華な食事が並べられても幸せじゃないわ。 朝、目が覚めた直後なら、何もかも忘れて眠れるのは最高に幸せだけど、眠気が少しも無いときに布団に入ったって幸せでも何でもない。 他のも同じようなものね。 結局何が幸せかなんて、あなたの感覚やその時の気分ですぐに変わってしまうもの。明確な回答なんて存在しないわ。 だから、何よりも幸せだと、心から思えることを見つけられたら、それはとても素晴らしいことよ。 だけど、最高の幸せを見つけるには長い長い経験と客観的に物を見る力が必要。 だからこそ、あなたみたいな普通の人間にはまず見つけられないの。 くすくす……なぁに?そんなに言うなら私には見つけられるのかって? 決まってるでしょう?私はあなたと違って普通の人たちの何倍もの時間を生きられるのよ? それも同じ時間を。 嫌でも客観的な見方が備わってくるわ。 え?答えになってないですって? ……そうね。私なりの最高の幸せをあなたに教えてあげるわ。 それはね、「生きる」ことよ。 あら、がっかりしたかしら?もっと突飛な回答を期待してた?そんなものいらないわ。 私はね、昭和58年の6月という時間に繋ぎとめられているの。 必ず殺されるとわかっている同じ時間を、私はどうしようもなく流されていく。 そして何も出来ないまま、私は殺される。 「死」は退屈よ? 何も見えない世界に放り込まれるだけ。そんな世界に、幸せなんて何も無いわ。 それを幾度も経験してきた私が言うのよ?少しは真面目な話に聞こえたかしら? この世の物体の全ては、「生」か「死」の観念に支配されているの。 そして幸せを感じる事ができるのは「生」の観念を持つ者だけ。 それを身をもって体験した私だからこそ、はっきりと言い切れるのよ。 幸せになりたいのなら、生きなさい―――――                                                  Frederica Bernkastel